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札幌高等裁判所 昭和44年(う)186号 判決 1969年12月25日

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

本裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

押収してあるステレオ(札幌高等裁判所昭和四四年押第四七号の一)および腕時計(同号の三)は、これを没収する。

被告人から三六万二七八〇円を追徴する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人武田庄吉作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、原判決の刑の量定が不当であるというのである。

そこで考えるに、被告人の原判示収賄の所為は、その期間が長期にわたるとともに回数、金額ともに大きく、犯行の態様をみても、まことになれなれしく安易に収受したものも含まれる等悪質というほかなく、本来中立公平であるべき公務員の職務の性格を損ね、これに対する一般社会の信用をも失墜させたこのような被告人の行為に対して、原判決が他の原審共同被告人と区別し実刑をもって臨んだことも必ずしも首肯し得ないではない。

しかし、ひるがえって考えるに、被告人の収賄行為中最も多額で回数も多い原審相被告人梅川仁からの分については、被告人と梅川とは、職務上の関係とは別に、家族同志をも含めた私的な交際関係があり、原判決において自分の息子さえ引き入れたとしてその悪質性を指摘された原判示第一の一の1のステレオ一台の収賄にしても、右の平素における私的な交際関係の故に、梅川が被告人の息子を呼び出して品物を選択させ、またこれに対し、金額こそ少ないがいわゆるお返しがなされている経過が認められるのであり、この点は、もとより犯罪の成否に影響を及ぼすものではないとはいえ、犯情としては被告人に有利に斟酌すべきことがらといわなければならない。また、被告人は、その責は自らにあるとはいえ、本件によって懲戒免職の処分を受け、長年勤めた職場を去り土建会社臨時雇として働かなければならない破目に立ちいたり、経済的にもその妻を働きに出すほどの苦境に陥ったことが認められ、社会的にはかなりの制裁を受けたといわなければならない。さらに、被告人はこれまで何らの犯罪歴をも有さず、その勤務振りもまじめであったうえに、本件によって相当期間身柄拘束を受けるという苦痛を味わい、現在自己の行為について深く反省していることが認められ、また当審事実調の結果によれば、右の反省の一端として金二五万円を贈賄者である梅川仁に返還した事実も明らかであり、以上諸般の事情に加えて、被告人の経歴、家族状況、また被告人が本裁判の確定により三六万円余の追徴金を納付しなければならない立場におかれることをも併せ考えると、原判決が被告人に対し執行猶予を付さず、徴役六月の実刑をもって臨んだのは量刑重きに失するものというべきである。論旨は理由があり、同判決は破棄を免れない。

よって、刑事訴訟法三九七条、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に則り直ちに当裁判所において自判すべきものと認め、さらに次のとおり判決する。

原裁判所が適法に認定した事実に原判決挙示の法条および刑法二五条一項を各適用して、主文のとおり判決する(なお、第一審の懲役六月の実刑を控訴審において懲役八月、執行猶予四年の刑に変更することは、刑訴法四〇二条のいわゆる不利益変更禁止の原則には抵触しないと解すべきである。他方、本件において被告人に対し懲役八月、執行猶予四年の刑を言い渡すことは、懲役刑の刑期の点で原審における共同被告人と比べ軽きに過ぎる嫌いがあるが、これ以上の刑期とすることは前期不利益変更禁止の原則に抵触するおそれがある以上、やむを得ないところである)。

(裁判長裁判官 深谷真也 裁判官 小林光 大谷明)

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